オウムとナチスと幸福の科学と. ~現代オカルトの根源~ 後編

前編では幸福の科学の教義と、その元を辿ってGLAに触れた(思ったより長くなってしまった)。
今日はGLAから更に宗教思想史を辿り、様々なカルト宗教やオカルト(子供の頃親しんだオカルトが実は宗教思想の方便だったことを知った時の衝撃よ)、危険な思想を産んだ神智学に辿り着きたいと思う。

 

今日の記事も長くなってしまったのでまとめを簡単に書いておく。

1. 幸福の科学の元を辿るとニューエイジを経て神智学に辿り着く
2. 神智学はヨーロッパに渡ってナチスを生み、日本に渡ってオウムを生んだ、極めて危険な思想である
(3. 自己啓発ももともと宗教)

 

昨日は幸福の科学の元となったGLAについて触れた。この教団の高次元霊との交信や、高級霊と低級霊(≒悪魔)といった思想の多くが幸福の科学に受け継がれている。

余談ではあるが、GLAと関わりを持った作家に平井和正氏がいる。『幻魔大戦』という作品を知っているだろうか。

 

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漫画化や映画化もされた人気作なのだが、この作品の内容が「ある日超能力に目覚めた高校生が、世界を破滅させる幻魔と戦う」というものなのである。このように、GLA高級霊vs低級霊、「覚醒」した人間による超能力の発揮といった概念は、氏の作品を通じてサブカルチャーにも波及することとなる。

 

さて、GLAにも影響を受けた宗教が存在する。
その宗教は「叡智のアガシャ聖堂」と言う。高級霊との交信や、その霊の指導に従うユートピアの建設など、教義の共通点が指摘されている。この教団はアメリカを本拠地としており、当時存在したニューエイジ新宗教の一つである。ここでようやく「ニューエイジ」が出てきた。

 

ニューエイジ

 

少しサブカルチャーに詳しい人なら、「アメリカのヒッピーが大麻LSDをやりながら『おお、俺は神秘的な世界を垣間見たぜ!!』とかやってるアレ」と言ってもらえば分かるだろうか。何もドラッグをキメたいだけでやっていたわけではなく(いやそういう人が大半だったかもしれないが)、それには一応理由がある。

 

ニューエイジというのはその名の通り、「新しい時代」を語源とする。「新しい時代」とは西洋占星術における十二宮周期(2160年周期という長い周期である)の「水瓶座の時代」を指す。現代はその前の「魚座の時代」にあり、ゆくゆくはこの時代の物質的な制限・常識を超えた、新しい時代がやってくる。その時代の思想を先取りしているのがニューエイジャーだ、というわけである(何故魚かというと魚はキリスト教=現体制のシンボルだからである)。

 

水瓶座の時代」は英語で「アクエリアンエイジ」であり、実は超能力でバトルする同名カードゲームはこれに由来する。

 

ニューエイジという思想は極めて多様な概念を含むため簡潔にまとめるのは難しいが、概ね既存の体制(=魚座の時代)へのカウンターであり、一部を取り上げると下記のようなものである(現代オカルトの根源ではあまり触れられていないので、島薗進著「精神世界のゆくえ」を参考に要約)。

1. 意識変容・霊的覚醒による自己実現 : 自己をより高い次元へ近づける
2. 現代文明の行き詰まり : 既存の体制は行き詰まっているので新しい知を育てなければならない
3. 超能力・超古代文明は実在する
4. 指導霊の実在
5. 思考は現実化する:個人の意識は世界と繋がっている
6. 宇宙の霊的進化と意識の進化は繋がっている
7. 輪廻転生 : 魂は死後も存在し続ける
8. 宇宙人との接触:宇宙人は既に地球にやってきており、高度な知性を持っているものもいる

 

ヒッピーがLSDを摂取して幻覚に耽っていたのは1.の発想によるものであり、神秘的な世界に触れることで意識変容し、より高い次元へ行くことができるという発想である。
また、超能力や宇宙人などのオカルト成分も含まれているが、これは既存の体制へのカウンターとして考えれば理解できる。
つまり、「今の文明では解明できないことをニューエイジャーは知っており、既存の常識に支配されている人間より上等だ」というわけである。

 

この思想から、超能力の存在や霊との交信、宇宙の霊的進化(アクエリアンエイジへ)といったものが教義・教団化したのである。

 

ちなみに、5.の「思考は現実化する」は僕が十代の頃に耽溺した自己啓発本のタイトルそのままだが、自己啓発ニューソートというキリスト教思想が源流である。自己啓発も、そもそもは宗教思想の一形態なのだ(ニューソートを日本に持ち込んだのが生長の家谷口雅春)。

 

ここまで挙げてきたニューエイジの「宇宙は特定周期で霊的に進化し続けている」という思想や、「指導霊に従ったり霊的に覚醒することで自己を高められる」という思想は「神智学」という思想の影響を大きく受けたものである。

 

この「神智学」という思想は、オカルト成分が強いせいかあまり研究されていないが、この思想は世界各地に渡って危険思想やカルトを生み出した元凶と言えるものである。ここからは神智学の概要について簡単に触れる。

 

神智学はヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831-1891)という人物によって生み出された。彼女はもともとロシアにいたのだが、結婚生活がうまくいかずに家を飛び出し、世界中を放浪した。この時触れた様々な宗教や神秘思想を折衷して作り上げた思想が、その後世界に思わぬ影響を与えていくこととなる。

彼女が生み出した神話は下記のようなものである(かなり簡略化している)。

 

宇宙論
宇宙は神から生み出された天使達によって作られた。神と天使達はビームを降り注がせることによって太陽系の惑星霊たちを創造した。神は太陽系に7つの周期を設定し、それに沿って宇宙を進化させようとする。

 

○人類論
宇宙論で述べた7周期のうち、第4周期で地球に霊が誕生した。7周期の中にはさらに7つの段階が存在し、人間は下記7段階の根幹人種を経て進化する。

1. 「不滅の聖地」に発生
2. ハイパーボリア人
3. レムリア人
4. アトランティス人(第三の目と超能力を持っていたという)
5. アーリア人(今はこの段階)
6. パーターラ人
7. 神人として聖地(1.の場所)に回帰

 

今の人類は第5段階にあり、アーリア人が支配種族である。
人類は北極近辺にある不滅の聖地に発生した。最初は霊的に進化していたが、文明が発達する度に物質的・動物的な欲望(科学や獣姦など)に支配されてしまい、文明は滅びてしまった。例えばレムリア人の中には獣姦(!)を行った者たちがおり、霊的な堕落が起こったためにレムリア大陸は沈没した。但し、滅亡の度に生き残った人類が存在し、次の段階の文明を作ってきた。今の世界でも「正しい」霊的進化をしている種族と「動物的な」物質的進化に取り込まれてしまっている種族が存在する。我々はこの世界において、霊的に進化していかなければならない。

 

読んでいて頭が痛くなってくるような内容だが、宇宙と人類の霊的進化、超古代文明・超能力といったオカルト、そして「霊的進化をしている種族は高尚であり、物質的進化を志向する種族は堕落している」という発想の元ネタがここに現れていることが分かる。

 

神智学はブラヴァツキー夫人の死後も発展を続け、後継者がオカルト好きだったことからさらにオカルト色を強める。
・秘密結社陰謀論:人類の霊的進化を妨げる悪の勢力「闇の同胞団」が存在する。
・人間を霊的に進化させようとする善の勢力「大聖同胞団」が存在する。この組織には9つの階級が存在し、歴史上の偉人たちはここに所属していたのだ。
・9つの階級の最上位に位置する霊格は金星からやってきた。
・ヨーガや瞑想によって超能力や霊能力を身につけることができる

...などなどである。

 

金星から地球を統べる霊格が地球にやってきたことになっていたり、9次元の階級が存在したりという部分は幸福の科学の教義にも見られ、オカルト色も後世の思想に引き継がれていることが分かる。

 

このような個人の妄想にしか思えないような内容の神智学がなぜ生まれ、広まったかというところには、実は生物学が関係している。進化論である。

 

「神が世界を創造した」という教義が生物学によって否定された際、宗教サイドがそれにどう対処するかという問題が発生した。神智学はその際の宗教サイドの反応の一つである。それまでの一神教的世界観を様々な宗教・思想を折衷した霊的世界観に置き換え、さらに進化論までも折衷したのだ。

 

さて、ここからは神智学の後世への影響についてまとめる。

アーリア人」、「高尚な種族とそうでない種族が存在する」...どこかで聞いたことがないだろうか。

 

途中をかなり省くが、「アーリア人が人類を支配する種族である」とした神智学はヨーロッパに渡ってユダヤ陰謀論と結びつき、アーリア人ゲルマン人の純血を守ろうとする思想が生まれた。この思想を持った集団に「トゥーレ協会」というものがあり、ディートリッヒ・エッカートやルドルフ・ヘスといった人物が会員になっていた。

 

この協会は最初は単なるオカルト結社だったが、次第に政治色を強め、1919年に「国家社会主義党」、そして1920年に「国家社会主義ドイツ労働者党」となる。既に分かっていた人もいるだろうが、「国家社会主義ドイツ労働者党」とはナチスのことである。

 

他の要因はあるにしろ、神智学の持つ選民主義や陰謀論ナチスの思想を産んでしまったのである。

 

さらに神智学は日本に入った後、ヨーガや密教修行による超能力開発の潮流を生む。この潮流に阿含宗という新宗教がある。密教修行を行うことにより超能力を身につけることができる(ヨーガ修行の部分で神智学が引用されている)というこの教団には、麻原彰晃こと松本智津夫が所属していた(これはオウム真理教マニアなら皆知っているネタだ)。オウム真理教の厳しい修行と超能力開発といった教義も、元を辿ると神智学にかなり影響を受けている(というか元ネタ)といえる。

 

そして僕がかつて信じていたオカルトも、神智学の影響下にある。ジョージ・アダムスキーという人物をご存知だろうか。「アダムスキー型UFO」なら知っている人も多いかもしれない。僕はアダムスキーについて「UFO好きな爺さん」くらいに思っていたのだが、彼の正体はそうではない。彼はもともと、神智学の影響を受けた「王立チベット教団」という団体を率いてコミューンで暮らす宗教思想家だったのだ。ところが神智学のネタにUFOネタを折衷した(何故折衷したかというとUFOが流行ったからだ)本がバカ売れしてしまい、UFOネタで生活していくことになったのだ。つまり彼の思想は神智学の1バリエーションだったわけである。

 

超古代文明ネタやマヤ暦ネタも同じような構造にあり、いずれも神智学を補強するネタが広まってしまった。
かつてハマったオカルトがカルト思想の補強ネタだったとは、インチキばらしから更に踏み込んだネタばらしをされた気分である。

 

幸福の科学の元ネタを辿る100年の旅がようやく終わった。たった100年そこそこでよくもここまで世界をかき混ぜてくれたものだと思う。それ程一部の人には神智学は魅力的であり、だからこそ危険なのである。

 

ここまでの記事は主に下記書籍を元に書いた。

大田俊寛著「現代オカルトの根源
島薗進著「精神世界のゆくえ
・レイチェル・ストーム著「ニューエイジの歴史と現在
東京キララ社編集部編「オウム真理教大辞典

 

 

 

 

精神世界のゆくえ―宗教・近代・霊性

精神世界のゆくえ―宗教・近代・霊性

 

 

 

ニューエイジの歴史と現在―地上の楽園を求めて (角川選書)

ニューエイジの歴史と現在―地上の楽園を求めて (角川選書)

 

 

 

オウム真理教大辞典

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