天気の子感想 ~ムーと橋下徹と世界への怒り~

大好きな新海誠監督の最新作が公開されたということで、早速東宝シネマズ新宿に見に行ってきた。そう、『天気の子』である。

 

 

内容としてはデビュー作『ほしのこえ』に始まり、『雲のむこう、約束の場所 』 、『 君の名は 』セカイ系を作り続け、今やその代表格と目される監督の、令和のセカイ系といった趣だった。
セカイ系:主人公とヒロインを中心とした関係性が、世界の終わりやこの世の危機に直結する物語群。『ほしのこえ』、『 最終兵器彼女 』、『イリヤの空、UFOの夏』など。


今日はこの作品についてネタバレ感想を書いてみたい。僕は天気の子を、「自分を抑圧したセカイに対する復讐の物語」として見た。


僕にとって『天気の子』は、恵まれない幼少期を過ごした上京組に深々と突き刺さる要素がちりばめられた作品だった。


キーワードはムーと橋下徹である。一見この2つには関係がないように見えるが、実は深いところで繋がっている。それをこれから解説する。


○世界への怒りとムー

この作品の中心的な流れは以下のようなものだ。小さな島で抑圧された少年(帆高)が家出し、東京にやってくる。
帆高はそこで「天気を100%晴れに変えられる」能力を持つ少女(陽菜)と出会い、オカルト雑誌の編集で食いつなぎながら(ここで出てくるのがムー)、陽菜と一緒に晴天ビジネスを始める。
陽菜の能力は確かで、晴天ビジネスは順調だったが、日に日に東京の天気は異常になり、陽菜の体にも異変が出てくる。
実は陽菜の能力は神から授かったものであり、彼女が天上界に取り込まれるのと引き換えに天気を操れるものだった。
陽菜の能力を使えば異常気象は元に戻るが、引き換えに彼女を失ってしまう。
帆高は能力を失う代わりに彼女を天上界から救い出すことを選ぶ。
帆高が陽菜を選んだため、異常気象は収まらず、大雨のため東京は水没する。


世界を選ぶかヒロインを選ぶか、という典型的なセカイ系の葛藤が含まれた作品だが、注目すべきは帆高がさほど葛藤することなくヒロインを選んでいるように見えた点だ。


これを解く鍵は「抑圧」と「ムー」である。


上でも書いた通り、主人公、帆高は小さな島で抑圧されていた。どう抑圧されていたかは明確には描写されないが、物語の途中で東京生活にピンチが訪れても「島には帰らない!」と強い意思を見せているところから彼にとってはかなり重いものだったことが伺える。


このように子供時代を抑圧されて育った人間が向かう方向には色々あるが、この一つにオカルトがある。そう、ムーである。


子供時代に重い抑圧を受けた人間は、自分を痛めつける世界への怒り、あるいは絶望を抱えることになる。


ここで起きるのが自分を抑圧する世界や常識を超越した世界と繋がりたいという願望であり、人はその願望を上京、国外脱出、オカルトへの耽溺、政治活動といった手段 (探せばまだまだあるはずだ) で満たそうとする。


オカルトの場合は超越した世界と繋がる手段が「実は地球にやってきているUFOとそれを隠す政府の情報」だったり「実は存在した超古代文明について書かれた古文書」だったり「全ての人間に眠っている超能力を目覚めさせる方法」だったりする。


そう、この作品では帆高は「上京」、そして「超能力を持った少女」という手段で超越世界と繋がっているのだ。


陽菜が力を授かったのが神社というのも象徴的だ。まさに超越存在との接続である。


○自分を抑圧した世界への復讐と橋下徹

ところで、世界から散々痛めつけられた人間が世界を救おうとするだろうか?


そんなはずはない。「世界?そんなものは知らん。自分を痛めつけた世界より、自分を救ってくれた彼女を選ぶ。」となって当然だろう。


こう考えれば、帆高が陽菜を選んだのも実に自然な流れである。世界が水没しようが知ったことではない。救ってくれた人物に恩返しするのが先だ。


このように、抑圧から自力で逃れた人間は、時に世界への復讐心を募らせることがある。


僕はこの例として、橋下徹氏を挙げたいと思う(支持者の方がいたらすみません)。


橋下徹氏の出自について述べることはしないが、彼が壮絶な環境から努力して公立トップ校に入り、弁護士から政治家に上り詰めたのはよく知られている。


このような生い立ちを考えると、貧しい子供に優しい人物になるようにも思えるが、現実はそうではない。


2008年のことだ。当時大阪府は財政改革案の1つとして私学助成金の削減を予定しており、これに反対した高校生が声を挙げ、当時府知事だった橋下氏と面会することになった。


この時橋下氏はどう対応したか。「努力して公立に行けば良い。」「自分で政治家になりなさい。」「今の日本は自己責任です。」と、自己責任論を高校生に叩きつけたのである。


努力して厳しい環境から脱出した人物は、時に同じような環境にいる人に対して厳しい態度を取る。そう、かつての自分を苦しめた人々に復讐するかのように。


最初に書いた通り、『天気の子』は、世界から虐げられた少年が、自分を救ってくれた少女を取り戻すと同時に世界に復讐する話であるように僕には思えた。


劇中にあるように、本当に世界に復讐すると多くの人に迷惑を掛けることになってしまう。


世界への怒りを抱えた我々は、この呪いと付き合いつつ、生きていかなければならない。監督からのそうしたメッセージが垣間見える作品であった。

 

 

 

 

小説 天気の子 (角川文庫)

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