女装と攻殻と。- Ghost In The Shell -
新宿にGHOST IN THE SHELL(4DX)を見に行ってきた。
劇場版アニメ公開から20年以上を経てついに実写化。年月を重ねてここまで認知が高まったか、と実写化発表時点で感無量だったが、作品もなかなかの仕上がり。元々難解な原作をブレイクダウンしつつ、4DXで近未来都市を飛び回るという体験的快楽をプラスしていたのはさすが。
実写化するならこれくらい分かりやすくて良い。
アニメ版とは違うシナリオになっているが、アニメを忠実に再現したシーンがあったり、他の映画のオマージュが入っていて
・都市の描写で巨大なホログラムとか映像看板が大量に出てくる → ブレードランナー風味を入れてきましたね
・マンション名がアヴァロン → 押井守監督の実写作品からかなー
・マンションの一室で話し出す桃井かおり → あ、これマトリックスのオラクルですね
など、僕よりサイバーパンクに詳しい人ならもっと色々見つけられると思う。
この映画を新宿で見たのにも意味があり、高層ビル群が立ち並びつつその下に横丁が並ぶ様子がブレードランナーのモデルになったと言われているのである(「4つくれ」「2つで十分ですよ!」のシーンはファンの間の鉄板ネタである)。
さて、僕が女装を始めたのには攻殻機動隊の影響もある。
攻殻機動隊が属する「サイバーパンク」というジャンルの特徴として、テクノロジーによるアイデンティティの危機がある。
サイバーパンクの世界では、体は自由に変えられるし(これを義体と呼ぶ)、もっと言えば脳をネットに繋ぎ、肉体から解放された存在になることができる。その時人間のアイデンティティはどのようにして保たれるのか、という問題だ。
その世界では、義体をまるでアイコンを変えるように取り替えて別の人物として振る舞うことができる。
この「自由に見た目を変えて別の人間として振る舞う」ことができるというコンセプトは、自らの肉体にコンプレックスを抱きがちな現代人にとっては夢の世界である。
何しろ社会が取り除いてきた「生まれつきの属性によって差別されること」(性差別、部落差別etc...)の最後の対象であり、我々に呪いのようにまとわりつく「見た目による差別」から解放されるのだ。
そして、「見た目をコントロールして別の人間になる」という行為を、今の技術によって実現する方法の一つが女装なのである(このあたりの話については以前も書いた)。
このため、女装を始める前は、「見た目を変えることによって身体性から解放されるのを楽しむのか」と思っていた...が、実際に女装を初めて分かったのは、女装をする目的はむしろその逆で、「自分の身体性 = アイデンティティに価値を見出す」ためなのである。
生後の努力によってほとんどのことが得られる、という前提を共有した社会に生きていると、我々は何かを努力して身につけた自分に交換可能性を見出してしまう。
つまり、「自分ではない別の人が同じようなトレーニングを行えば、結局似たようなことができてしまう」呪いにかかる。
そして、「努力しても得られない」ものに価値を見出す。
ここでは簡単に、
ニュータイプ:先天的にモビルスーツを操縦できる新人類
強化人間:後天的な投薬や心理操作によりモビルスーツを操縦できるようになった人間
としよう。自己肯定感が満たされるのは、ニュータイプのほうではないだろうか?
これは地頭信仰にも通じるものがある。IQテストで高得点を取ったとして、何も準備せずに何故か点を取れる天才...そういうものに人間は惹かれる。
エヴァのシンジ(一方、努力でパイロットになったアスカは壊れていく)やマトリックスのネオ = The Oneなど、運命付けられてしまった主人公は様々な作品に登場する。
「何故かは分からないけど、選ばれてしまった」感覚は、強烈な快楽であり、麻薬のようなものだ。
自分と他人を分かつもの...交換できない個性としての身体を再確認するのが女装という行為なのである。
さて、今週末も出かけよう。夜の新宿は広大である。
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